スティーブ・ジョブズと聞くと、イノベーティブな製品を数々と生み出し、晴れやかな舞台で人を魅了するプレゼンに長けた人物だとイメージするのではないだろうか?
彼に似合うのは眩しいくらいのスポットライトだ。そんなスポットライトだが、光が目立つためにはより暗い暗闇が必要だ。本書は華々しいジョブズの成功とは裏腹に、イノベーティブな製品「iPhone」がどのように生まれたのか、そしてどのように供給され続けているのか、それを成功者視点ではなく、第三者がリアルに見つめ真実を語ってくれている。本書を読み進めれば、今握っているiPhoneとの接し方も大きく変わるだろう。
本書のポイント
ポイント1
iPhoneはジョブズ1人のアイデアで生み出されたものではない。アイデアの連鎖、組み合わせ、融合、努力で生まれた。
ポイント2
声の大きいリーダーとどのように付き合うべきか。イノベーティブな製品を生み出すためには開発者の「自由」が必要だ。そのポジションの取り方は必読だ。
ポイント3
物を作るための物理的なリソースを意識することで、キラキラ光るiPhoneを支える真実の闇と向き合える。それを踏まえ、自分なら今後どうするのか考えさせられる。
本書の読みどころ
iPhoneを生み出す流れには「採掘」→「生産」→「廃棄」というサイクルが存在する。まさにこの流れが酷く淀んでいる真実を知る。
「採掘」では、貴重な鉱物を採掘するために貧困国の人々が寿命を削りながら採掘を行なっている。彼らには小さな子供たち、家族が我々と同じように存在する。しかし、過酷な環境から、採掘者の寿命は平均40年しかない。
「生産」では、中国で1日あたり50万台iPhoneを生み出している。その異常な数値を達成するためにQCD(クオリティ、コスト、納期)の厳守が必須だ。その劣悪な労働環境からフォックスコン工場では自殺者が出て、その対応策として従業員に自殺をしないことを約束させる誓約書を書かせているとのこと。人の気持ちを誓約書に書かせるものなのか、やるせない気持ちになる。
「廃棄」では、レアメタルを含むiPhoneは廃棄後も魅力的なデバイスだ。しかし、一台からわずかしか取れないレアメタルを抽出するため、中国では一般的な場所で燃やされ、その行為で水路は汚染されていく。またナイロビでは再販目当てでゴミを漁る少年たちが数多く存在する。しかし、治安統治が悪い国では作業中トラックに轢き殺されても、死体はそのまま放置されているというカオス状態だ。本当にそれでいいのだろうか。
さいごに
どんな製品でも、QCDを究極にこだわれば「闇」が増える。特にアパレル業界などは典型的な闇のバリューチェーンで構築されている。
ただ、近年ではそのバリューチェーンを見える化し、その現場を価値として公開して消費者から共感のもと適正価格で購入してもらっている動きもある。トレーサビリティだ。
iPhoneなど様々なデバイスにトレーサビリティを導入するかどうかはわからないが、モノがあふれる時代、この光と闇の現実には個々人が意識を持って取り組んでいく必要があると感じた。
本書はそういった意味で陰陽の本質をあらためてリアルな事例として示された良書だろう。
情報
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